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牛の聲④

僕と高藤くんはなんとか磯部くんの華奢な身体を起こして、それから三人で既に整列している生徒の方に向かいます。磯部くんの足はおぼつかなく、何度もよろけて倒れそうになる彼を見て僕は不安でいっぱいでした。集合場所に着くと、石田先生は「白熱したバトルだったなぁ」と楽しそうに笑います。
知ってて止めてくれなかったのか、この人。
僕はそう思うと、自分の担任の教師に対して体中から怒りが漲るのを感じました。あれだけ磯部くんが苦しがってるのを見てもこの人は止めてくれなかった。ただもしストップをかけてくれていたとしても、僕らの計画が破綻していたのは間違いありませんので、結局僕らの計算ミスと言うことに変わりはないのですが...。
「辛そうだけど、大丈夫か?」陽気な声で石田先生がフラフラしている磯部くんに声をかけます。
「ええ...大丈夫です」そう答える磯部くんに対し、どっと生徒達は笑い声をあげます。
「あいつさ、金玉なくなったんじゃねーの?」牛島くんが大声でそう言って周りの生徒を湧かせました。磯部くんは笑われながらもまだ紅い頬を強ばらせながら必死にその場で耐えているようでした。身体は悔しさで震えていて、体操座りして待っている生徒の中に混ざろうとしません。それは僕と高藤くんも同じでした。
「まあ、先生はお前たちの遊びには一切干渉しないからな。もうお前たちも幼稚園じゃないだろ?来年で六年生になる。どんな遊びが安全で、良識があるかを判断して絆を深めて欲しいと先生は思ってる」石田先生は説得力のある口調でそう言いって、それから最後にこう付け加えました。「ま、本当は授業中なんだけどな」
「ぐふふ」と牛島くんが勝ち誇ったような、それでいて不気味な笑い声をあげました。
それは、今年に入ってから彼が発するデブ少年の特有の(?)お得意の笑い癖でした。何か悪戯をして成功した時に低く卑しい声で、僕はそれを聞くたびに身震いするくらいの寒気に襲われたのです。

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牛の聲③

石田先生は男らしくて格好よくて、一部の女子生徒に人気はありましたが、僕はあまり好きではありませんでした。女子には優しいのに、男子には割と厳しいというか...依怙贔屓をする先生かなという先入観があったからです。

その中でも特に厳しくするのは、もちろん牛島くんです。ただ彼は言うまでもなく怒られても平然とした態度をとります。普通の先生ならそこで顔を真っ赤にして注意をするか、それ以上は咎めずに負けてしまうのですが、石田先生の場合はちょっと違って、廊下に立たせたりなどの手を使います。
普段はお茶目なところもある石田先生ですが(主に女子の前で)怒ったときの気迫はスゴいもので、牛島くんも廊下に何度か立たされるのを見たことがあります。ただ、牛島くんの場合廊下に立つのも慣れてしまう才能があるようで、石田先生はそんな牛島くんの性格にもイラついているように見えました。

僕は牛島くんも嫌いですが、実は優しそうに見えて性格の悪そうな石田先生も嫌いなので、二人が険悪な雰囲気になると磯部くんや高藤くん達と一緒に陰で盛り上がると言う...まあ結局僕らも所詮下劣なタイプなのです。
ただ、今のところ牛島くんの方に僅かに軍配があるように、僕ら生徒は感じていました。石田先生が怒りに狂って理性を失うのを、牛島くんは若干楽しみに待ち望んでいる様子もありましたので。(その辺は牛島くんも大分悪知恵が付いてきたかと思います)

今と違って体罰にもそこまでうるさくない時代ではありましたが、石田先生はあくまで生徒に対して最善の反省方法を編み出して、与えるやり方をしていたので、保護者からも批判は全くと言っていいほどなかったのだと思います。

「いじめられたらいつでも言うんだぞ」

ただそう言ってランドセルを軽く押す牛田先生は頼もしくも思えましたし、何だか牛島くんの粗探しでもしているみたいで、やっぱり僕は個人的には好きになれませんでした。...磯部くん達は違いましたが。

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牛の聲②

皆さんもうとっくにお察し付いているかと思いますが、話はまだ終わりではありません。
思えば僕らの学級自体、珍しくおとなしいタイプの生徒が集まっていたんですよね。
だからその分やんちゃな牛島くんが特に目立ってしまったことはあったので、そこは少しだけ同情の余地はあるかもしれません。
あの後、濱地くんのいなくなった僕らのクラスルームはまたしても牛島くんの支配下に陥ったわけですから(今思い出すと支配という程のことでもないんですけど)、牛島くんはその後の行動も相変わらずで、ターゲットを決めたらほとんど泣かせるまで嫌がらせを続け、飽きると他の子をまた探すというやり方を繰り返していました。

やがて僕らは5年生に進級し、クラス替えも行われたせいもあってクラスの雰囲気は少し変わっていきました。僕は磯部くんたちと同じクラスになり、そして不幸にも牛島くんと同じクラスになりました。

そして例の問題児。牛島くんはと言うと、その見た目にここ数ヶ月で急激に変化が加わり、日が経過するうちにいじめっ子の風格が露骨に現れたというか...今まで以上に何ともふとましく、あんこ型のルックスにできあがっておりました。
そうなんです、元々ぽっちゃりだった牛島くんは、聞いた話によると半年足らずでジュッキロ以上も増量したんです。その変化は普段から見ていた僕らにも分かるくらいの劇的な変化でした。

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牛の聲

昔話をします。
僕の小学校ではその昔、牛島くんと言う名のぽっちゃりとした少年がクラスを仕切っていました。
本人曰く自称痩せ型だそうです、実際は普通より、少し肉のついた子供らしい体型だったと思います。
牛島くんはちょっとしたガキ大将タイプの子で、愛嬌のある顔とは裏腹に、命令口調で物を言ったりと、あまり評判は良くありませんでした。学年に一人、二人いそうな子です。

僕は小学校から彼と知り合うことになりましたが、幼い頃から僕は牛島くんが怖くて仕方がありませんでした。
だから、僕や他の同級生のみんなも彼の言うことは何でも聞いていて、ほとんど言いなり状態だったんです。
そんな牛島くんの行動は学年が上がるごとにエスカレートしていって、毎回弱そうな子をイジメのターゲットに選ぶと、とことん追い込むってスタンスでした。ペンをへし折るとか、シューズをゴミ箱の中に突っ込む...。
細いガリガリのひ弱そうな僕みたいなタイプの子は真っ先に選ばれるんです。椅子の下に画鋲をばら撒くとか...当然のようにやってくるんです。

僕もトイレの個室に閉じ込められてホースで水責め?みたいなことをされた時は全身びしょ濡れになってわあわあと泣いてしまって周りから冷やかされたり、もしくは同情された目で見られたりなんて...酷い目に遭いましたよもう。
牛島くんのケライと言うものになればそこまで酷い目に合わないからと言う理由で、彼についてく子達は中にはいたみたいですが、牛島くんは退屈になると仲間内からターゲットを選出して嫌がらせをしていたみたいで...ほんとにどうしようもないって言葉が正しいくらいの子だったんです。

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