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牛の聲③

石田先生は男らしくて格好よくて、一部の女子生徒に人気はありましたが、僕はあまり好きではありませんでした。女子には優しいのに、男子には割と厳しいというか...依怙贔屓をする先生かなという先入観があったからです。

その中でも特に厳しくするのは、もちろん牛島くんです。ただ彼は言うまでもなく怒られても平然とした態度をとります。普通の先生ならそこで顔を真っ赤にして注意をするか、それ以上は咎めずに負けてしまうのですが、石田先生の場合はちょっと違って、廊下に立たせたりなどの手を使います。
普段はお茶目なところもある石田先生ですが(主に女子の前で)怒ったときの気迫はスゴいもので、牛島くんも廊下に何度か立たされるのを見たことがあります。ただ、牛島くんの場合廊下に立つのも慣れてしまう才能があるようで、石田先生はそんな牛島くんの性格にもイラついているように見えました。

僕は牛島くんも嫌いですが、実は優しそうに見えて性格の悪そうな石田先生も嫌いなので、二人が険悪な雰囲気になると磯部くんや高藤くん達と一緒に陰で盛り上がると言う...まあ結局僕らも所詮下劣なタイプなのです。
ただ、今のところ牛島くんの方に僅かに軍配があるように、僕ら生徒は感じていました。石田先生が怒りに狂って理性を失うのを、牛島くんは若干楽しみに待ち望んでいる様子もありましたので。(その辺は牛島くんも大分悪知恵が付いてきたかと思います)

今と違って体罰にもそこまでうるさくない時代ではありましたが、石田先生はあくまで生徒に対して最善の反省方法を編み出して、与えるやり方をしていたので、保護者からも批判は全くと言っていいほどなかったのだと思います。

「いじめられたらいつでも言うんだぞ」

ただそう言ってランドセルを軽く押す牛田先生は頼もしくも思えましたし、何だか牛島くんの粗探しでもしているみたいで、やっぱり僕は個人的には好きになれませんでした。...磯部くん達は違いましたが。
「石田なら、もし計画が失敗しても俺たちに付いてくれるよ」
「それだな、それは100パーあり得る。あいつアンチ牛島だから」
プールの前日、磯部くん達は楽しそうです。そして緊張もしているみたいです。
「明日本当にやるの?」
「今更変更なんてしないぜ。親友なら協力しろよな」
「そうだって、このまま卒業までデブ島の言いなりになってもいいのかよ」
「そうだね...」

確かに磯部くんの計画は完璧でした。クラスの女子にお尻を見られたのがよっぽどショックだったんじゃないかと、僕は改めて思いました。ゲーム以外のことに、こんなに積極的に行動する磯部くんを見たのは久しぶりだったかもしれません。

それにしても、明日にもこの計画を実行となると、流石に僕も足が竦みました。牛島くんを嵌めるなんて考えたこともなかったですし、三人だからといって本当にうまくいくのでしょうか。全く想像さえ付きません。逆に彼を陥れることができたとしたら、一体どんな騒ぎが待っているのか...考えるだけで不安は募るばかりなのでした。

そして来る次のプールの日。僕らは大胆な計画を実行することにしたのです。
更衣室で水着に着替えた後に、いつものように体育館に向かいました。
ちょうどその日は金曜日でした。実は金曜日はかなり特殊な時間割になっていて、プールの前授業(体育館での自由時間)が4時間目になっているため、いったん体育館で授業を受けた(遊び回った)僕らはそのまま教室で給食・掃除の時間を済ませ、それから5時間目にやっとプールに向かうというものでした。

そうなると、水着を着用して給食と掃除の時間を過ごすことになるため、考えた教師はアホかと思われるのですが、僕らは子供なので全く気にも留めず、すんなり受け入れられるのです。(実際に3年生の時に同じ時間割になったことがありますので、学年によってランダムで割り振られるのかと思います)
いいなあ、なんて思える女の子はできる年頃でしたが、女子のスクール水着を見ても僕らは何も思わない年頃でしたし(全員とは限りませんが)相変わらず掃除の際は、男対女で文句を言い合いながら掃除を始めるのがほとんどです。

話は戻りますが、その日、僕らは体育館で石田先生から軽くプリントを配られた後、石田先生と2組の本山先生がいなくなったのを確認して、体育館のやや壁際で輪を作りました。言い忘れていましたが、体育の授業はもちろん隣の2組の生徒も合同のため、暇そうな生徒を見かけて輪に入るように呼びかけたのです。

「今日はおもしろいゲームやろうぜ」僕ら以外に4人くらい男子生徒が集まった時点で高藤くんはそう切り出しました。
「どんな?」
「それはナァー...」
「おーい、何やってんだ、俺も入れろよ」輪の中に強引に入ってきたのは、言うまでもなく獲物を漁っていた太っちょの少年です。
牛島くんはでか尻をかきながら、いつものように僕らを見下すようにそこに立っていて、強引に生徒を押し分けて輪の中に入ってきます。
途端に牛島くんが大嫌いな生徒達(無論全員ですが)は無言になります。その沈黙を破ったのは磯部くんでした。
「今からゲームやろうと思ってたんだ」
「何だよ。プロレスか?俺が相手になるぜ、ほらかかってこいよ」鼻息をフンフンさせながら牛島くんが威圧的にジャイ○ンみたいに太い腕を振り回します。
「違うよ、我慢大会だよ。ね、みんな」
今度は僕が切り返したものの、誰に振って良いのかわからず、僕は適当に愛想笑いをしながら頭を掻きました。しかし我慢大会と、慣れない言葉を聞いた生徒達はほんの少しばかり興味持った視線をこちらに向けて、やや前に乗り出す仕草を見せます。
「ガマン大会ー?なんだよ、オマエらみたいな弱虫がなんの我慢なんてできんだよー。優勝は俺に決まってるだろ?」
「うん、そうそう。でもやってみなくちゃ分からないしさ」
遠慮がちに高藤くんもなんとか合わせようと口を揃えます。蒸し暑い体育館すが、暑さとは違った嫌な汗が背中を流れるのを感じました。
「ぁン?」
牛島くんは高藤くんを今度は睨み付けますが、勇気を振り絞って僕らは話を続けます。
「まあまあ、ルールだけど。我慢大会は一人1分ね。交代で行うから」
「最初にやりたい人いるか?」
「ルールってそんだけ?何の我慢するのさ」
他の生徒も気になってきたようで、質問をぶつけてきます。すると高藤くんは彼の両脚を持って、水着の股間の部分に足の裏を乗せました。
「これ。これな。電気あんま。1分間逃げるのは禁止で」そう言って高藤くんは2組の生徒に電気あんまを食らわせます。床で寝そべって悶えて暴れる細身の少年は、意外と力が強く、途中から彼の友人らしき生徒に、後ろから羽交い締めにされていました。
一分間急所を攻め続けられる様子を面白がった生徒は、自分がやられることよりもそれぞれのやられている子の反応がどうやら気になるようで、予想以上にこのゲームに好感を示した様子でした。
僕は3人目の少年がやられている最中も、牛島くんに気をつけて目をやっていました。牛島くんは初めは少し怪訝そうな顔つきをしていましたが、みんなが異様に盛り上がるのを見て、途中から身を呈してゲラゲラと笑い出しました。
「高藤ばかりずりぃだろ。俺にもやらせろよ」
牛島くんがそう申し出てくることくらい、僕らの計算のうちです。
牛島くんは2組の生徒の足をがっしりと持つと、太い足を彼の股間に忍ばせ、「いっくぞー」とかけ声をあげてから、思い切り股間に振動を加えようとします。
しかし牛島くんのやり方は振動というよりも、単に股間をドンドンと蹴り上げてるだけで、やられた男子生徒は別の苦しさで藻掻き苦しみます。もちろん誰も止められる生徒はいません。1分後に、彼はほとんど半泣きの表情になっていました。

牛島くんが主導権を握ったことによって、グループ内の雰囲気がいつもの牛島くんワールドになると、空気をすべて持って行かれてしまい、いつの間にか僕らは怖じ気づいた姿勢になってしまいます。しかし僕たちの結束は固かったのです。互いの目を見合わせ小さくうなずき合います。だってここからが本番なのですから。
「ほらほら、次は誰だー。ってあとはオマエらだけじゃん、どいつから泣かせちゃおっかなあ」
牛島くんは気味の悪い笑みを浮かべながら僕ら三人組を眺めます。
「俺がやるよ」
名乗り出たのは高藤くんでした。そして高藤くんはなんと地獄の一分を乗り切り、股間を押さえながら僕にバトンを渡します。
予想通り牛島くんのやり方は酷なものでした。手加減なんて一切なく本気でアソコを何度も蹴り上げる、所謂ただの暴力です。
そして、最後は磯部くんでした、この前の事件があったばかりの磯部くんはどんなに恐怖で怯えていたか想像はできません。でもここで逃げてしまってはここまでの作戦がおじゃんです。それは磯部くんが一番分かっているのでしょう。
「あれれー?最後は磯部っちじゃね?お前さ。女子にケツ見られてたよな?あれ最高だったよ、女子も一生の記念になったと思うぜ~」
「....まあ...ね」
「いいから足出せよ、最後に一番全力でやってやるからサぁ。金玉二つとも潰してやるからお別れいっとけよ?」
その言葉で僕は去年の濱地くんの台詞を思い出しました。牛島くんは彼とのやり取りを覚えているのでしょうか。
大人の人には分からないかもしれませんが、一年と言う歳月は僕らみたいなゲームして菓子食ってるクソガキにとっては大変長く感ずるのです。もしかすると牛島くんは何も覚えていなく。ただ単に彼の空っぽの脳みそに隠れてあった言葉が、不意をついて出てきただけかもしれません。
「今日こそ泣かせてやるよ。ほら、篠原さんも見てるぜ?」
牛島くんは磯部くんの両脚を持った状態で、遠くの方で眺めている女子生徒に目をやりました。牛島くんはやっぱり誰かをいじめるときに、篠原さんの名前をよく使います。もしかすると牛島くんは本当は...。

その瞬間でした。磯部くんの叫び声が体育館中(とは大げさですが)辺りに響きました。牛島くんが力一杯彼の股間を連続で蹴り上げた(牛島くん流電気あんま)のです。
「暴れんなって、おい誰か押さえろ。立野!」牛島くんが乱暴な声でそう言って僕を急かします。(申し遅れましたが僕の名字は立野です、特にこのお話には何の重要もないですが)
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、磯部くんの背後に回って彼の両手を遠慮がちに押さえるようにして、固めました。
「ギャハハハハ、こいつタマキン蹴られてめっちゃ苦しそうだぜ!おい、見ろ見ろ!」
磯部くんのあえぎ声よりも、そもそも声のでかい牛島くんのせいでみんなが周りに集まってきます。磯部くんは耳の裏まで真っ赤に染めながら、口を堅く結んで恥辱に耐えているようでした。
「......い、磯部くん」思わず僕は彼の背後で呟きます。しかし彼は首を振りました。
「大丈夫だ...あと少し...絶対に解くなよ」
「オラオラオラオラオラ~!みんなこいつのタマキンもうすぐ潰れるぞ~ぐちゅって言うぞ~チュウモーク」
一分間がやけに長く感じられました。僕がやられているとき以上に。気がつくと、ちょうど笛がなって、僕は石田先生が舞台近くで集合をかけてることに気がつきました。
「ちっ、ちょうど一分か。もっとやりたかったな、あーくっそオモロかったわ〜」
牛島くんは立ち上がると太鼓腹をボリボリと掻いて、のんびりと伸びをします。磯部くんは身体を起こすと目に溜まっていた涙を二三度、拭いました。
「あれ、お前タマキン潰れて泣いちゃった?5年にもなって泣くなんてださいよ?ほら早くいくぞ、泣き虫、毛虫。石田が待ってるって」
牛島くんはそれだけ言って、集合場所に一人楽しそうに走って行ってしまいます。
「間に合わなかった...」
僕の言葉に磯部くんは今までにないくらい悔しそうに唇を噛みしめていました。そして涙交じりの声で、何度も僕にこう言いました。
「ごめ..ん....ほんとに...ごめん」
謝らなくてもいいのに、と僕は心から思いました。一番悔しくて、一番被害を受けたのは彼なのですから。
一人一分と決めたものの、時間配分がおかしかったのでしょうか。それともいつもより石田先生が早く戻ってきたかどうか...その時の僕らにはわかりませんでした。ただ分かったことは、牛島くんが電気あんまを受ける前に、僕らのゲームは終わってしまったと言うこと。結果は、もう火を見るより明らかでした。
僕らは自分たちで編み出した策に溺れてしまったのです。それも最悪な結果で。

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久々に…

すみません一気に読みました(T_T)
このあとどう展開されるのか気になって仕方がありません!!
先生も重要人物っぽいですし…どうなることやら( ̄∇ ̄)笑
楽しみにしてます!

Re: 久々に…

>シグナールさん
こんにちは!お久しぶりです(*´ω`*)気に入ってくださって嬉しいです〜!
結構気軽に書いちゃってる作品なので、誤字脱字多発してるかもしれませんが
また時間できたときに続き書いていきたいと思います!いつも応援ありがとうございます〜v-10
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