ブタのいる教室

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「約束を絶対に破れない魔法の用紙さ。大人の間で使われてるんだ。ここに二人が
条件を書き込んでサインする。それで二人の約束は絶対ってこと」
「へぇ〜。頭いいじゃん、小石」
「だろ？それで、条件はどうする？」
小石さんはぼくに尋ねて来る。
まだ訳が分からずポカンとしてるぼくの代わりにお兄ちゃんが、「一回につき、百円はどうだ？」と聞いて来た。
「え？百円？」
小学生のぼくにとって百円は大金だ。１０円のお菓子が３個。２０円のお菓子が２個……いや、それでももっと買えそうだ。今までのあめ玉一個がケチに思えてくるくらい。
「本当に。本当にいいの？」興奮してお兄ちゃんに詰め寄る。
「いいって。ただし、百円貰ったらその夏は、ちゃーんと俺と小石に言われたポーズする事」
「いいよ！何でもやるよ！」
即答で返事する。本当に何だってやりたいと思った。
「ゾウさんもか？」
「うん」
「ケツだけ星人もか？」
「うん！！！」
「オナニーもか？」
「うん！！！！！！……ってなにそれ？」
二人はちょっとニヤツいた顔を見合わせながらも、ぼくに視線を戻した。
「とにかく、言われた事はちゃんとやること。いいなっ！一路隊長！」
「アイアイサー！」
調子に乗って兵隊の様なポーズをとる。
「よし。決まりだな」と小石さんは優しく微笑んだ。
「えと、一路は今年で十才か。じゃあ、契約は一先ず六年間にしとこうか？中学卒業するまでだ」
六年も？と、ぼくは思わず目を丸くする。
「何言ってんだ。六年って行っても毎年の夏のこの時期だろ？夏は一年に一度。要は、たったの六回だけしかないんだよなぁ」
何だか詰まらなさそうに小石さんは独り言の様に呟いた。それでもぼくは興奮してお金を指で数えていた。
六回全部終わったらいくらになるんだろう…。
「六百円だよ。大金持ちだな。一路」
「ろ…六百円！？すげーー！」
「よし。そこまでは決まり。それじゃあお互い破った時の罰を決めないとな。どっちかが母ちゃんに告げ口したら、…大変だったんだろ？」
「あ、そうだ」とぼくは思い出して頷く。
「俺は何でもいいぜ。ぜーったい破らねーからな」
「何でもいいさ、何か考えろよ」
小石さんの言葉にお兄ちゃんはちょっと考えて、「んじゃ、好きなゲーム買ってやる」と答えた。
「ゲーム？ほんと！？」
その年にお兄ちゃんはお母さんに告げ口したり、百円をくれなかった場合には代わりにゲームを買ってくれると言っているのだろうか。胸からこみ上げて来るワクワク感が止まらなかった。
「ああ〜。好きなもんいいさ」
「絶対だよ！？」
「ああ。契約書に書いとくよ。……ほら。これでいいだろ？」
お兄ちゃんはスラスラとペンを契約書の条件の欄に走らせる。
「その代わりお前が破ったら……」
お兄ちゃんがぼくの顔を覗き込む。顔が近くなった。
「何……？」
「破ったらな……」
「ん……？」
ニッとお兄ちゃんの口元が動いた。
「お前の写真。お前の友達みーんなに見せちゃうからな！」
ぼくはキョトンとする。
「それだけ？」
「ああ。それだけさ」
「ん〜〜…それくらいいいよ」
ぼくはちょっとわざと不安げな表情を演じてみせながら頷いた。
ラッキーだ、と思った。もっと酷い条件を突き出されるのかと思えばただ裸の写真をみんなに見せられるだけのことだ。仲のいい友達の前で裸踊りなんてしょっちゅうしている。この条件ならぼくが圧倒的に有利だ。
「それじゃ、決まりだな」
小石さんが条件を書き加え、そしてぼくとはお兄ちゃんはそこに共に名前を書き。
二人並んで、同時に親指の指紋をその横へ付けた。

そしてその後、約束通りぼくはいつも通り下半身丸裸になってゾウさんのマネをしたり、ケツだけ星人のマネをしたりして二人を笑わせた。
いつもやっていた事なので臆する事なんて何一つ無かった。ただ、今日は写真を撮る音が聞こえただけ。途中で止められてちんちんをアップで撮られたりもしたけれど、全くぼくは気にしなかった。
その後、しんちゃんのマネだけでなく、お風呂でお兄ちゃんに抱きかかえられてるシーンや、何故かトイレでのおしっこのシーンまでと様々なシチュエーションで小石さんはぼくのちんちんを狙って来た。ケラケラ笑いながらも決して隠さないぼくはむしろちんちんを強調させてカメラに向けてポーズをとってみせた。
「可愛いよ〜可愛いよ〜」
もちろん泊まり込みで撮影の小石さんはシャッターを切りながら何度もそう言って笑っていた。
「それにしてもちっちゃいな〜。こんなに体は横幅あるのにな。な、一路。友達と比べて小さいって言われるだろ？」
お風呂上がり、パジャマのズボンとパンツを脱いでぼくはお兄ちゃんの膝へと腰を下ろし、股を軽く開きながら二人の質問に答えていた。
「比べないよ。そんなの」
「赤ちゃんと比べてみろよ。サイズぴったしだよ？」
「も〜。煩いなぁー」
お兄ちゃんがぼくのアソコをちょっと摘んだので、顔を赤くしてぼくは股を閉じた。
その恥ずかしがっている表情がいいのか、姿勢がいいのか。また小石さんはシャッターを連続で切り始めた。
「ほれ、隠すな。一路赤ちゃん」
お兄ちゃんに後ろから股を開かされてしまった。
お兄ちゃんの家で泊まったのは僅か三日間だったけれど、小石さんに撮られたぼくの写真は百枚以上もあったと思う。
ぼくはケイヤクショというものに書いた通り、百円を貰うとポケットにしまってケイヤク通り、お母さんに内緒でうきうき気分で家へと帰った。
たった三日写真を撮られただけで百円。こんな嬉しい仕事はない。
そう思った。
まだ、その時は。

翌年、四年生になったぼくはまたお兄ちゃんの家へと遊びにいった。
「ちょっと背伸びたな？」
お兄ちゃんがひょいとぼくを膝の上にのっけて、頭を撫でて来た。毎年の事だ。
「体重も増えたろ？」
「えへ、バレた？」とぼくは笑って舌を出す。
その後お兄ちゃんとゲームをして遊んだ。それから少しして小石さんがやってきた。
「久しぶり、一路くん」
「あ！お久しぶりです！」
小石さんも交じって会話も弾み、少しするとすぐに撮影の話となった。
「忘れてないよね？」契約書を見せて来る小石さんに、もちろん、とぼくは胸を張った。勢い良く真っ裸になる。
「ふつーは、四年生にもなりゃ恥ずかしがるんだけどな〜」
お兄ちゃんは全く恥じらわないぼくに一本とられた様な顔をした。
「全然平気だし！」
腰を振ってちんちんをプラプラ振ってみせる。
「ちっちゃいちんちん出して威張るな」
お兄ちゃんにちんちんにデコピンされておどけてぼくは飛び跳ねた。
今年も去年の様な撮影かと思ったら少し違った。何をされても恥ずかしがらないぼくに小石さんは川へ遊びにいこうと提案したのだ。
お兄ちゃんの家から離れたところには結構有名な大きな川がある。とても奇麗で泳ぐ事だってできるのだ。毎年お兄ちゃんの家に来る時は海水パンツを持ってくるのはそのためだ。
川へ着くと、たくさんの親子連れが目に入った。もっと遠くの方では釣りをしている大人もいる。毎年懐かしい気持ちでテンションが上がる。
さっそくぼくらは服を脱いで準備をする。痩せて背の高い二人に対して、背が低くデブのぼくの体型はあべこべでなぜか面白く思えてしまう。
急いでブリーフ一丁になったぼくは、そこで初めてふとぼくは海パンに履き替えた二人を訝しげな表情で見上げた。バッグの中にはぼくの海水パンツだけが入っていない。
「ね、ぼくのは？」
「何が？」
「ぼくのパンツだよ。パンツ」
「え？パンツ？」
「トボケないでよ！海水パンツだよ。泳げないじゃんか」
二人はキョトンとした表情だったが不思議そうな顔をぼくに向けて自然な笑顔で笑ってみせた。
「一路、お前ノーパンで泳ぐんだぞ？」
「え？」
「え。って何だよ。フリチン平気なんだろ？」
「……え！？で、でも。人いるよ？」
「子どもだろ？裸ん坊の子だっているじゃないか」
お兄ちゃんは呆れた様に言って、海パンを履かずにはしゃいでいる少年少女たちを指差す、見れば２〜３才くらいのほんの小さな子だ。
「で、でもぉ……」
「なんだぁ？恥ずかしいのか？」
ちょっぴり笑いを堪えている様なお兄ちゃんの顔に少し反抗心を覚えながらも、ぼくは「恥ずかしくないよ」と声をあげてブリーフを下ろした。
何故かやけになっていた。フリチンのまま川へ飛び込もうとすると、お兄ちゃんはぼくにそのまま準備運動をさせた。確かに準備運動はお母さんからも言われていて毎年させられている。しかし、裸でなんて…。
「ほら、一路。やるぞ。いーち、にー、さんーしっ！」
周りを見ると、大勢のお母さんや子どもの目は明らかにぼくの股間に集まっていた。クスクス口に手を当てて笑っているのが見えた。周りを気にしないぼくがちょっとだけ恥ずかしさと言うものを覚えた瞬間でもあった。
だが、実際に入って遊んでしまうとすぐにパンツを履いていない事なんて忘れて、思う存分ぼくは川遊びを楽しんだ。休憩中、岩の上でそのまま股を開いて寝転がっているとクスクス同じくらいの年頃の女の子たちが何かを話しながら僕の横を通り過ぎていったが、全く気にしなかった。
「そんなにチンコが珍しいかよ。バーカ」後でそう呟いてやった。
それから、大勢の人から離れたところを三人で泳いでいるとふと、後ろから怒鳴られた。見ると釣りをしている少年たちが迷惑そうな顔でぼくらを見つめている。
慌てて三人で岸へあがると、彼らは素っ裸のぼくを見つめ、途端に大きな声で笑い出した。
「あのデブチンポコ出してるぜ？」
「きたねーもん、出すなよ。しまえよ！魚が逃げるんだよ」
露骨に罵倒する彼らに小学生のぼく何も言えないでいると、お兄ちゃんはぼくの耳元で何か囁いた。小石さんもニッと歯を見せて笑った。
数分後、ぼくは彼らの釣りをする少し上流の岩の上に立って川の中へとおしっこを始めた。お兄ちゃんと小石さんは大笑いしていたが、少年たちは気が狂うくらい激怒してぼくを追っかけて来た。だが、結局背の高いお兄ちゃんたちが割って入ってきたので、彼らは釣り道具をしまい、無言で帰ることとなった。
そんなぼくの四年の夏の楽しいひと時はあっという間に過ぎていった。

その翌年にぼくは五年生になり、ふくよかな体をさらに大きくしていった。その年は、家庭の事情でお兄ちゃんの家に行けず、夏休みは自宅でのんびりと過ごした。
そして。またその翌年。六年になったぼくは私立の塾に無理矢理通わされる事になって結局夏休みは遊ばせてもらえなくなった。
鉛筆を加えながら、近所の友達が外で遊んでいる姿をボーット窓から眺める夏が続いた。
そしてそんなぼくにも懐かしい夏は、やっってくることとなった。
今までと同じ、そしてまた別の形の夏が。